2022年1月11日、天草市が、paralreal株式会社(以下、パラレアル)、及び、株式会社コーホー部(以下、コーホー部)と進出協定を締結した。これによって、パラレアルが運営する「パララボ天草」が誘致(開設)され、産業や雇用の創出を狙った「天草メタバース計画」がスタートする。
- 天草市(熊本県)
天草市 公式サイト - paralreal(本社:福岡県福岡市、代表取締役:大仁田英貴)
paralreal 公式サイト - コーホー部(本社:同上、代表取締役:同上)
コーホー部 公式サイト
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1.天草市の人口減少
まず最初に、天草市の状況に触れたい。なぜ、天草市がパラレアルを誘致し、メタバースに参入しようとしているのか?
天草市では、平成7年(1995年)から平成27年(2015年)までの20年間で、人口が2万人が減少している。これは市の総人口の20%に当たる。
また、若者が魅力を感じる仕事が少なく、結果、その多くが市外に流出し、漁業以外の産業就業人口が減少している。持続可能な地域経済づくりに欠かせない人材の確保が極めて難しい状況に陥っている。
これらの背景から、天草市にとって、産業や雇用の創出は急務と言えるのだ。
2.パララボとは
「パララボ」は、パラレアルがVR・XR*を活用したサービスを創出するための拠点「パラレアルラボ」の略称。同社はパララボを「中二病だけが集まることのできる夢見がちなXR秘密基地」と表現している。今回の「パララボ天草(熊本県天草市中央新町)」は、2021年3月31日に開設された「パララボ福岡(福岡県福岡市中央)」に次いで2拠点目となる。
XR
エックスアール。Cross Reality(クロスリアリティ)、または、Extended Reality(エクステンデッドリアリティ)の略語。VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)など、仮想世界と現実世界を融合させる技術の総称。
パララボ福岡には、VRゴーグルを使用せずに360°のパノラマVR映像を体験できるパラレアルーム(8台の可動式モニター)や、室内グランピングをコンセプトにしたBlabo(ブラボー)ルームが備わっている。
なお、社名にもなっている「パラレアル」とは、VRやARといったXRテクノロジーを使用し作られた空間である「parallel(パラレル)」と、普段生活する社会の「real(レアル)」を組合わせた造語。
3.パララボ天草の役割
「パララボ天草」は、天草の持つネームバリューと、良質なコンテンツである「観光(アナログ)×VR技術(デジタル)」を融合させ、ハイクオリティな「天草」を世界に発信し、ブランディングアップする「天草メタバース計画」の活動拠点となる。天草市の発表によれば、観光客誘客を図る事業、VRワーカーやエンジニアの育成、福岡と天草の2拠点間交流事業などの展開が予定されているとのこと。
プロジェクト第1弾は、天草の観光地をメタバース化した天草の観光地を、アバターがガイドする「VR観光ツアー」となる。物理的に離れている地域間をメタバースで繋ぐことによって、新しい観光、新しい物販、新しい仕事の創造を狙う考えだ。同サービスのリリースは2022年夏(2022年春にはメディア向けの体験会を予定)。
4.関係者のコメント
今回の、進出協定の調印式は、天草市庁舎(リアル)とメタバース(バーチャル)で同時開催(進行)された。
この調印式の中で、誘致する側の、天草市の馬場昭治市長は「最先端の技術を活用した新たな産業の創出、若者が魅力に感じる雇用の場の創出により、天草市への定住と人口流出の抑制にもつながるものと大いに期待している」と語った。
進出する側の、VRなどのデジタル先進技術を情報発信の手段として活用するパラレアルと、インターネットを利用した宣伝広告事業を手掛けるコーホー部の両代表取締役を務める大仁田氏は、「天草の良さを、天草にいながら発信できるような人材、デジタルを活用した世界観を作ることができるようなエンジニアの人材育成も見据えて、天草の地でビジネス展開をしたい」と抱負を語った。
また、パラレアルは、高校生を招いたイベントも開催している。福岡、天草の両拠点で、引き続き、「高校生から参加可能なVRエンジニアの育成」にも注力し、地元の雇用促進を目指す考えだ。
なお、天草市は、UIJターン就職を促進し人材確保を図るため、地元企業を紹介するYouTubeチャンネルを開設するなど、多くの施策を積極的に講じている。天草市UIJターンしごとチャンネル
UIJターン就職
Uターン:地方で生まれ育った人が、都会の学校を卒業後、故郷に戻って就職する。
Iターン:都会で生まれ育った人が、都心で就職した後、地方に移住して就職する。
Jターン:地方で生まれ育った人が、都会で就職した後、故郷とは異なる地方に移住して就職する。
人材サービス大手のパソナグループが本社機能を淡路島に移転したことは記憶に新しい。同社は「メタバース上で営業もできるし、副業もできる。淡路島での生活をバーチャルに体験してもらい、移住につなげることもできる」と語り、地域の雇用創出や文化振興にも一役買っている。
メタバースが浸透するにつれ、地方移転の動きにも拍車がかかるだろう。地方都市や市区町村はそれまでに誘致する基盤を整えておかなければならない。