2022年2月8日、株式会社バンダイナムコホールディングス(本社:東京都港区、代表取締役社長:川口勝 以下、バンダイナムコ)は、2021年度第3四半期決算発表の中で、メタバース市場に参入することを表明した。
本記事では、バンダイナムコ第3四半期決算資料(PDF)などを参照しながら、同社の計画について共有したい。
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1.第3四半期の業績
2021年度第3四半期は、売上高6,283億円、営業利益921億円、経常利益955億円、四半期純利益617億円となり、売上高とすべての利益で過去最高となった。
セグメント(事業)別に見ると、前年同期に比べ、トイホビー事業、映像音楽事業、アミューズメント事業が業績を伸ばしている。この内、「トイホビー事業」と「映像音楽事業」がメタバース参入の主力になる。
- トイホビー事業
ガンプラ(ガンダムのプラモデル)やコレクターズアイテム、ロト(一番くじ)などのハイターゲット層向け商品が、国内に加え、海外でも展開を拡大し、好調に推移した。また、トレーディングカードやガシャポンなどの玩具周辺商品、「鬼滅の刃」などの新規IP*商品も業績に貢献した。 - 映像音楽事業
新型コロナウイルスの影響を受けたライブイベントビジネスが、開催制限の緩和や、新しい形式での開催により、前年同期を上回る業績となった。 - アミューズメント事業
国内アミューズメント施設の既存店売上高が前年同期比で120.7%となり回復の兆しが見えた。
IP
intellectual property:キャラクターなどの知的財産。
2.中期計画
2022~2024年を対象にした中期計画の内容は下記。
存在意義と使命
タグライン(企業のコンセプトや理念を端的に表す言葉)として「Fun for All into the Future」を掲げ、「エンターテインメントが生み出す心の豊かさで、人と人、人と社会、人と世界がつながる。そんな未来を、バンダイナムコは世界中のすべての人とともに創ります」と補完している。同社は、「世界中の人々とつながり、ともに創った結果が Fun for All into the Future であり、世界中の人々に楽しさと感動を届け、未来に向かって笑顔と幸せを追求していく」と強調した。
次のステージに向けてロゴを変更
現在のバンダイナムコのロゴマーク(下図)は、2005年にバンダイとナムコが経営統合した際に「融合」をテーマに制作された。
同社として、いよいよ次のステージに進むとして新たなロゴマーク(下図)が発表された。
前述の「つながる」と「ともに」を表現し、吹き出しをモチーフにしている。カラーは、全世界の社員に取った「バンダイナムコが目指すイメージは?」というアンケートの回答に多かった「情熱的」「楽しい」「アクティブ」を表現するレッドとなった。このロゴは2022年4月から導入される。
また、バンダイナムコの多様性を表現した4色の「ベクトルエレメント」は名刺やホームページなどのコーポレートツールに使用される予定だ。
ファンとつながるための新しい仕組みが必要
同社は、IPファン・パートナー・社員・社会と密接につながりたいと考えている。
- IPファン
バンダイナムコなしではいられなくなるほど深くつながりたい。 - パートナー
「バンダイナムコと組みたい」と選ばれる存在になりたい。 - 社会
様々なコミュニティとつながり、持続可能な未来に向かって共生したい。
そして、「重要なことは、つながり方の質を高めるということ。質にこだわってファンやパートナーとつながっていきたい」とも述べている。そして、この「つながり方の質を高める新しい仕組み」こそがメタバースというわけだ。
3.メタバース参入
バンダイナムコが考えるメタバースは「ファンに寄り添った、IPごとのメタバース」、つまり、「IPメタバース」だ。第一弾は「ガンダムのメタバース」の開発を計画している。
ガンダムメタバースの具体的な内容は、今後開催されるガンダムカンファレンスで発表されるとのことだが、現時点では次のような情報が公開されている。
- 開発にあたっては、ガンダムの世界観を重要視するため、当然ながら舞台は宇宙コロニー。
- アバター*を操作してメタバースに行くことで、ゲーム、アニメ、ガンプラ、eスポーツ、イベントなど様々な情報を得ることができる。
※同社は、2020年11月に、アバターテクノロジーのリーディングカンパニーであるGenies Inc.と資本業務提携を締結している。 - 現実世界と仮想空間が融合した新たなメタバースならではのコンテンツを提供する。
- ファンやパートナーにとって最適な場を提供しコミュニティを構築する。
また、同決算発表の質疑応答では、「将来的には、IPごとのメタバースがつながり合い、さらに大きな世界へと広げることも可能であることから、ファンがどのような形態のメタバースを望むのか、中期計画の3年間で技術面からもしっかりと検証したい」旨も説明した。
アバター
アバター、アヴァター (avatar) は、ゲームや仮想空間内での自分自身の分身。外見や服装、性別などを自分で設定でき、他のアバターと会話をしたり物を交換したりできる。サンスクリット語「avataara」が英語「avatar」となり、「化身」という意味を持つ。
4.IP軸戦略の進化
バンダイナムコは、「つながり方の質を高める新しい仕組み」として、IP軸戦略の進化も挙げている。同社の強みのひとつは、自社IPと幅広い事業領域を活かして「デジタル」と「フィジカル」の両方でファンとつながっていること。この両方を活かしたIPプラットフォームを作っていく考えだ。また、自社IPを活用した事業の最大化に加え、自社IP価値の最大化にも取り組むとしている。ときには、「事業の最大化」よりも「自社IP価値の最大化」を優先することもあり得るとした。
自社IP価値の最大化には、映像(映画)やゲームも含まれるが、自社IPのNFT*化も視野に入っていると受け取ったのは筆者だけではないはず。なぜなら、同社には大型IPが豊富にあるからだ。主要IPには次のようなものがある。
- アイドルマスター
- アイドリッシュセブン
- ウルトラマン
- 機動戦士ガンダム
- 仮面ライダー
- スーパー戦隊
- アンパンマン
- たまごっち
- プリキュア
- ドラゴンボール
- ラブライブ
- NARUTO・BORUTO
- ワンピース など
NFT
Non-Fungible Token:非代替性トークン。「権利書付きのコピーできないデジタル資産」のこと。一般的にデジタルデータは簡単にコピーされ流通してしまうが、NFTは特定のひとつを識別する識別子を有し、取引履歴や所有者の情報が保存されるため、コピー(偽造)できない。いわゆる「1点もの」となる。ゆえに「代替ができない(非代替性)」と表現される。つまり、誰のものであるかを識別できる状態で流通するため、権利を主張でき、資産になるという仕組み。
5.投資計画
メタバース参入やIP軸戦略にどの程度の投資が計画されているのかも共有したい。バンダイナムコの本気具合がうかがえる。
今回の中期計画では400億円の戦略投資を計画している(全中期計画では250億円)。内訳は、IP価値の最大化に250億円、IPメタバース開発に150億円だ。
ガンダムはもちろん、バンダイナムコが持つIP(前述)は筆者世代にとって垂涎ものだ。ガンダムを操縦したり、かめはめ波を出したり、誰もが夢見た未来はすぐそこまで来ているのかもしれない。